おわりに

 本論の内容については,建設省,11政令指定都市,住宅・都市整備公団等が参加して実施した,景観シミュレーション研究会(平成元年〜3年)が出発点となっている。私が事務局を務めたその研究会では,景観シミュレーションの都市計画への応用ということでは大先輩で,委員長をお願いした故山田学先生と,バーチャルリアリティ(という言葉はまだ無かった)など,いろいろと楽しい未来話をしたのを覚えている。

 その後のCG技術についてはほぼ予想通りに展開してきているが,この約5年間での大きな変化は,景観シミュレーションに必要なCG技術はもはや先端技術ではなくなり,汎用技術の範疇に移ったということである。また,インターネットなどの低コストのネットワーク利用の普及は,一般家庭のパソコンを端末とした双方向の合意形成システムといった予想外の新しい可能性を開きつつある。

 ここで述べた内容は一般的なレベルのCG技術の応用で実現できることが中心であり,将来予測も含めて記述した部分も十分に確率が高い内容であるが,これらが現場で使われるようになるか否かは,利用のニーズの明確化と体制作りにかかっている。CGを導入するためのコストは事業費などとの比ではわずかなものであり,合意形成の支援,都市の総合計画としての位置づけ,あるいは情報公開としての利用を考えれば十分にもとがとれるはずである。もし,情報公開により事業が思うように進まなくなるのでは…といった向きがあれば,これはまさに時代錯誤というものである。

 大金をかけて大急ぎでものを作る時代は終わり,これからは「知恵」と「時間」をかけてじっくりともの作りをする時代である。そのための人的資源は豊富にある。また,行政における情報公開,公共と民間とのパートナーシップの重視といった時流に乗って,今後,様々な立場の人たちの合意形成を円滑に進めることが重要な課題となる。そして環境,景観といった,より基本的で包括的な価値について社会的に扱う必要性が高くなる。このように対象が複雑になる分,それをわかりやすく表現するための様々なシミュレーションの役割は大きなものとなり,特にこの新しい「道具」が,これまでは後追いになりがちであった景観行政の位置づけを,より主体性のあるものにするための「力」となることに期待したい。