2.「東京都都市景観マスタープラン」の概要

2.「東京都都市景観マスタープラン」の概要


(1)策定の趣旨

 このような大きな流れの中で,東京都は美しくうるおいのあるまちづくりを目指し,景観づくり運動を全都的に展開するために,平成5年11月に「美しい景観をつくる都民会議」を設置するとともに,平成6年5月には,計画面からの指針として「東京都都市景観マスタープラン」を発表した。
参考文献6〜12

 東京都都市景観マスタープランは,東京の景観形成を総合的・計画的にすすめるために,景観形成の目標と施策の体系を示したもので,東京都の指針となると共に,区市町村の景観形成の指針ともなるものである。また,都の考え方を示すことによって都民や民間事業者の参加と協力を求めていくものである。その内容は別表に示したとおりである。
(表3)東京都都市景観マスタープランの内容

(2)主な内容

 第1章は東京の景観特性を整理したもので,自然的要素,生活文化的要素,空間的要素,その他眺望地点や絵画に描かれた景観等から,東京の景観特性を説明している。

 第2章は景観形成の構想として,まず初めに景観形成の3つの目標として,

  1. 自然をとりもどす
  2. 歴史と文化を伝える
  3. 多様な魅力を発展させる
の3つを掲げている。このうち,3番目の“多様な魅力を発展させる”は,東京は複雑な地形や歴史の集積によって特徴ある地区が非常に多く,それらの独自性をもった地域を育てながらバランスよく結びつけていくことが,東京の活力の源であり魅力でもあるとの認識によるものである。

 つぎにこれらの目標達成のための指針として,

  1. 大地の構造を重視する
  2. 川を景観の主軸にする
  3. 海につながる景観をつくる
  4. 生態系に配慮する
  5. 歴史や文化を継承する
  6. くらしの中の産業景観を生かす
  7. 個性豊かな街並みを育てる
  8. 快適な交通軸をつくる
  9. 調和のとれた住宅地景観を育てる
  10. 景観を阻害する要因を取り除く
について説明している。10番目に“景観の阻害要因を取り除く”を入れたのは,東京では活発な都市活動の結果,架空線,広告物や案内標識類等,いろいろなものが街中にあふれ,景観を阻害している場合が多いので,これらを意図的に整理していくことが重要であるとの認識によるものである。

 さらに,景観形成をすすめていくための枠組みとして,面的な景観要素を景観ゾーンで,線的な景観要素を景観基本軸で,点的な景観要素を景観拠点としてとらえ,最後に今後区市町村が景観形成をすすめるさいのモデル地区候補として景観形成地区を設けることを提案している。このうち景観基本軸は,河川や運河や用水,道路,崖線等の線状の景観要素が織りなす帯状の地域のうち,東京の景観構造の骨格となるもので,都の各種の線的な事業がおこなわれている地域でもある。
(図2)景観基本軸設定図

 第3章では,まず8つの景観ゾーン(川の手ゾーン,都心・副都心ゾーン,臨海ゾーン,新山の手ゾーン,武蔵野ゾーン,多摩中央ゾーン,林間ゾーン,海洋ゾーン)について景観特性と景観形成の基本方針を示し,ゾーン図の中の景観形成地区(候補地)の基本的な方向を示し,区市町村が景観形成の計画をたてる際の参考となるよう示している。

 つぎに11の景観基本軸(下町水網軸,隅田川軸,南北崖線軸,都心東西軸,臨海軸,玉川上水・神田川軸,多摩川・国分寺崖線軸,武蔵野軸,丘陵軸,山岳軸,島しょ軸)については,景観構造の特徴や基本方針とともに写真・図による目標達成のための提案をおこなっている。

 最後に3種類の景観拠点(歴史的建造物,公共施設,大規模開発)については,景観形成の基本方針の中で,今後それぞれを対象にした景観形成ガイドラインを策定するとしている。特に大規模開発については大幅な地形の変更や大規模建築物についての届出制度についても検討していくとしている。

 第4章は景観形成の展開として,今後の都及び区市町村の役割,都民に望むこと,民間事業者のめざすことも示している。この中で都の役割として,制度づくりの項では都市景観条例の制定等の検討と,景観形成誘導のための届出制度の検討を掲げている。