5.今後の展開への期待

5.今後の展開への期待


 CGによる景観シミュレーションに関する技術は,まさに日進月歩である。周りを見回しただけでも大学の研究室,民間研究機関や自治体などにおいて,計画策定レベルにおける道路の路線計画における景観検討・土工量検討,事前・事後予測による比較検討,プレゼンテーション・デモンストレーション,規制誘導による効果の予測・検証,森林の成長や季節天候による微妙な景観変化等に幅広く活用されている。今後さらに,計画思想の明示,都市エリアの全体を視野に入れた表現,都市機能・土地利用イメージなどノンフィジカルな面も含めた検討の手段としても期待は大きい。

 CGによる3次元シミュレーションの一般市民に向けての展開は,たとえば建築設計において設計内容を顧客に立体的に見せる説明するソフトが開発される等,すでに一般のユーザーを対象にした利用が始まっている。このような面からも今後CGシミュレーションが,市民と行政をつなぐまちづくりのツールとして使われる時代が来る可能性はきわめて大きいといえるだろう。

 平成3年秋から半年間,米国カリフォルニア大学のピーター・ボッセルマン教授が,東大先端技術研究所に客員教授として招かれ,日本に滞在中であった。氏は同大学バークレイ校の環境シミュレーション研究所教授であり,わが国の景観シミュレーションの技術にも強い関心を持っておられた。われわれは幸いにもこの間に何度か,氏に景観シミュレーションについての話をうかがう機会に恵まれた。

 ボッセルマン氏は都市模型によるシミュレーション手法,航空写真撮影による3次元データによるCGシミュレーションの方法,簡易模型を並べた街区の中をアイカメラで撮影して投影する街区模型シミュレーションについて紹介したあと,日本の景観シミュレーションはレベルも高く,技術的にも非常にすすんでいるといわれた。そしてその後で,繰り返し強調されたことは,“景観シミュレーションでもっとも大事なことは,できる限り客観的におこなうこと。また,何の目的のためにシミュレーションをおこなうかをつねに考えることがもっとも重要である”ということであった。

 CGによる景観シミュレーションは,行政の内部においてもすでにさまざまな形で使われつつあるが,今後は,市民参加のまちづくりにおける合意形成の有力なツールとして活用していくことがもっとも重要なことであろう。そしてそのためには行政だけではなく,市民,民間企業,さらには客観的な立場での調査研究機関が,それぞれの立場から本来のまちづくりの目的に向けて,CGシミュレーションを効果的に活用する方法としくみを開発すべき時期にきているといえよう。