CGによる3次元シミュレーションの一般市民に向けての展開は,たとえば建築設計において設計内容を顧客に立体的に見せる説明するソフトが開発される等,すでに一般のユーザーを対象にした利用が始まっている。このような面からも今後CGシミュレーションが,市民と行政をつなぐまちづくりのツールとして使われる時代が来る可能性はきわめて大きいといえるだろう。
平成3年秋から半年間,米国カリフォルニア大学のピーター・ボッセルマン教授が,東大先端技術研究所に客員教授として招かれ,日本に滞在中であった。氏は同大学バークレイ校の環境シミュレーション研究所教授であり,わが国の景観シミュレーションの技術にも強い関心を持っておられた。われわれは幸いにもこの間に何度か,氏に景観シミュレーションについての話をうかがう機会に恵まれた。
ボッセルマン氏は都市模型によるシミュレーション手法,航空写真撮影による3次元データによるCGシミュレーションの方法,簡易模型を並べた街区の中をアイカメラで撮影して投影する街区模型シミュレーションについて紹介したあと,日本の景観シミュレーションはレベルも高く,技術的にも非常にすすんでいるといわれた。そしてその後で,繰り返し強調されたことは,“景観シミュレーションでもっとも大事なことは,できる限り客観的におこなうこと。また,何の目的のためにシミュレーションをおこなうかをつねに考えることがもっとも重要である”ということであった。
CGによる景観シミュレーションは,行政の内部においてもすでにさまざまな形で使われつつあるが,今後は,市民参加のまちづくりにおける合意形成の有力なツールとして活用していくことがもっとも重要なことであろう。そしてそのためには行政だけではなく,市民,民間企業,さらには客観的な立場での調査研究機関が,それぞれの立場から本来のまちづくりの目的に向けて,CGシミュレーションを効果的に活用する方法としくみを開発すべき時期にきているといえよう。