1.景観シミュレーションの利用方法

 景観シミュレーションは,設計事務所や建設会社などがデザイン検討や,その結果のプレゼンテーションに利用するケースが多いが,そのような場合にはその利用目的,位置づけについては明白である。これに対し,公共的な立場での景観シミュレーションの利用については,その目的や実施主体などがあいまいなために,まだ試験的な利用が多いのが現状である。

 ここでは主として公共的な立場で実施する景観検討のニーズについて整理しつつ,在来手法との比較も含め,CGの特徴を生かした利用の可能性について述べる。なお,プレゼンテーションが固定した内容について,できる限り内容を忠実に表現するということを目的としているのに対し,シミュレーションはまだ内容が定まっていない対象について検討をするための手法として位置づけ,本論では区別して用いることにする。

(1)シミュレーションとしての利用

 「図面ではよくわからないので,CGを使って立体的に見てみたい」ということで景観シミュレーションを依頼されることがある。そして,このような素朴なきっかけでシミュレーションをした結果,景観形成にかかわる思わぬ事実がわかり,問題提起となるようなケースは意外に多い。これは目に見えない内容の可視化(ビジュアライゼーション)という,シミュレーションの最も基本的なニーズである。

 図面しかないと,その立体的なイメージは類似の空間体験のある専門家の頭の中にしか浮かず,それも不完全なものであった。資料だけではわからなかった立体的な関係性についてわかりやすく表されることで,多くの人が空間認識を共有し,より客観性があり納得のいく景観検討を行うことができる。これまでもパース画のほか,フォトモンタージュ,シュノーケルカメラによる模型撮影など,様々な可視化の手法が導入されてきたわけであるが,CGを利用することで,より手軽に現実感の高い検討をすることが可能になった。

 CGによる可視化の最大の特長は,人の視点から眺めた実際の景観について正確な表現ができることである。また,アニメーションを作成すれば,通過交通の視点からながめた沿道景観といった,連続的な視点設定をすることもできる。特にCG利用のメリットが大きいのは広範囲にわたる地形や建物などについて景観検討を行う場合で,模型では巨大になりすぎて鳥瞰的な視点からの検討が中心になってしまうが,CGを利用すれば,机上のコンピューターに広範囲のデータを入れ,任意の視点からの見え方について検討をすることができる。都市のスカイラインといったテーマ,ランドマークの見え方といった検討のほか,景勝地点の近景にくる建物の影響などを視覚的に確かめることが可能になり,地形の起伏がある場合には特に有効である。

 まだ,内容が固定化していない段階でシミュレーションを実行する場合,その内容について自由に変更ができることがポイントとなる。また,ある決まった対象について客観的な判断をするためにも,それ以外のケースとの比較をすることが確実な方法である。様々な設定条件にしたがってバリエーションを作成し,それぞれの見え方について同一条件で比較検討するといった作業がCGを利用することで容易になる。そして,その理想形はワーキングの場面で話の展開に従って視点の変更のほか,一部の内容の変更をも可能にするインタラクティブなCGシステムの利用である。色彩の変更,建物の位置の変更,あらかじめ用意しておいた建物の取り替え,単純な建物ボリュームの変更などは簡便なシステムでも実行することが可能である。

 パース画などの在来手法では作者の表現の恣意性が入る可能性が高いが,CGの利用でより客観性の高い景観検討が可能になる。設計コンペの審査などでCGの利用が可能になれば,複数の応募案に対して,視点の設定,周辺データや光の条件などを揃えた比較検討が可能になるので,別々の作風で作成されたパース画,模型などよりも正確な判断材料とすることができる。

 以上のような可視化のシミュレーションのニーズに対応するためには簡便に利用できることがポイントで,特に短時間に実行する必要があるので,必要以上の表現をしない,といった配慮が必要である。

 なお,当然ながら,すべての可視化のシミュレーションのニーズにCGが適しているとは限らない。例えばバルーン打ち上げによる高さの検討,モックアップによる詳細の検討,そして色彩,素材にかかわる現場での確認といった検討は,場所性,光,空気といった条件を正確に反映しその効果には絶対的なものがある。

(2)景観の評価手法としての利用

 さて,CGなどを使って景観検討の対象がわかりやすく可視化されても,その内容に対する判断はあくまでもそれを見た個人に依存する。その結果が万人の目に明白な場合もあるが,主観的な判断が必要なこともあり,良く分からない,あるいは意見が分かれるといったケースも多い。そこでもう一歩踏み込んで,シミュレーションで景観の良否の判定までしてほしいという話がある。

 また,景観保全と経済性といった,異なった価値基準に基づいて比較する必要がある場合に,景観について情緒的な基準しかないと押し切られてしまうケースも多い。特に景観誘導の方策が計画の内容に何らかの制約を与えるような場合には,その根拠についての明確な定義が求められる。これらが景観の評価手法としての景観シミュレーションのニーズである。これは今後の研究が最も必要な分野であり,ここに例として取り上げるのはその可能性のごく一部であるが,景観という包括的な内容に対していくつかの具体的な切り口を与える道具として,景観シミュレーションの技術を応用して用いることが可能である。

 自然環境や歴史的環境,景勝といった良好な景観資源の保全が目標となる場合は,それを軸にした景観誘導の指標が導入される。まず,景勝地点からの眺望,あるいは広域的に視認されるランドマークに対する眺望の保全が目標としてある場合,ある視点からの対象の視認性については正確に測定することができる。この指標により,新規に作られる要素に対する高さ制限,セットバックなどの形態コントロールを行うケースがあるが,このようなニーズに対しては,保全すべき眺望を確保するために必要なエアボリュームを規定するための景観シミュレーションが有効である。

 そして,保全すべき眺望の視野に入る建築物などの要素が既存の歴史的建築物などの要素に調和するように意匠的な誘導を行うための指針を定めるニーズについては,有効なガイドラインの内容を定義するために,景観シミュレーションにより合意形成を支援することが考えられる。

 一般的な既存市街地を対象とした景観誘導を図る場合,あるいは新しい市街地の形成については歴史的環境のケースに比べると景観形成の目標があいまいになりがちであり,まずその目標を明確にする必要がある。まず,緑資源の充実,オープンスペース・エアボリュームの確保といった環境の基本的なアメニティの保証が目標として定義されるケースがある。

 これに対しては,開発行為などにより改変を受ける緑資源の抽出とその保全策の検討,緑資源に対する眺望を確保するための建築形態コントロール手法の検討,既存の緑資源の不足を補うために再生すべき緑のボリュームの定義,といった検討ニーズに対して景観シミュレーションの利用が有効である。そして街並みの予定調和がテーマとなる場合には,街路のプロポーション,壁面位置の指定などについての指標を定義をするために,景観シミュレーションにより合意形成を支援することが考えられる。

 以上の例は,いったん目標が定まれば良否の判定や数値化がしやすい指標であり,数値化の例としては,建築の形態規制に関わる指標のほか,緑地の可視頻度の測定による保全重要度の指標,実際の視点からの緑被率の測定,色彩を調和させるための指標などがある。これに対し,景観に個性を生み出すための誘導,あるいはデザインテーマの導入といった景観誘導のニーズに対しては,スタイル,デザインといった定性的な内容について何らかの定義をする必要がある。

そのために言葉(形容詞)を指標として導入する試みがあり,事例写真やCGを利用して系統的に作成されたサンプルを用いた被験者アンケートを実施し,その結果を心理学的手法で集計することで「皆が良いと思う景観」について客観的に定義することを目的としている。これと対照的なのが,特定の個人(マスターアーキテクトなど)の個性あるいは判断を軸にコーディネートするといった景観形成の方向であるが,尺度の参照モデルが明確な場合にはルール化された指標に基づいたシミュレーションの適用が考えられる。いずれの場合も,定性的な内容についての指標化には限界があるので,判断基準のひとつとして位置づけるべきであろう。

(3)プレゼンテーションとしての利用

 ここでは,定まった内容について,多くの人に見せることを前提として可視化するニーズについて「プレゼンテーション」として位置づける。公共の内部での利用としては,委員会などの公式の検討会での発表,あるいはガイドラインなどの内容の一般市民への啓蒙を図るための広報的な利用が考えられる。そして事業関連ではその推進に向けた合意形成を図るため,あるいは広報宣伝目的で用いられることが想定される。

 イメージ性豊かなプレゼンテーションにより良好な景観形成に向けたイメージ目標を共有することで,円滑な合意形成を支援する。そして身近な景観を材料としたプレゼンテーションにより,普段はよく見ていない対象について関心を持たせる効果も期待できよう。例えば,看板の消去,無電柱化の効果,といった景観の改善策については,その結果については明白であり,シミュレーションとしての検討の余地はあまり無いが,そのデモンストレーション効果による,計画の推進を図るための利用が考えられる。また,逆目的のプレゼンテーションとしては,無秩序な建物の建設による眺望の阻害など,良好な景観が改悪されるケースを表現することで,既存景観を守るための問題意識を高める上での利用も考えられる。

 プレゼンテーションに用いられるCGの技術は基本的にはシミュレーションと同一であるが,より高い説得力のある表現効果が求められる場合には,高度な表現技術を用いることが必要になる。内部利用のシミュレーションは多少の表現の不都合は暗黙の了解のうちであるが,プレゼンテーションはそのようなディテールが問題となる場合も多い。このレベルのニーズではCG技術以上に,作成する人のテクニックが重要であり,光や材質感の設定,点景の配置などはいわゆる「絵心」があるかどうかでその結果の違いは大きい。公共の立場での利用を考えると,シミュレーションは内部で実行しても,プレゼンテーション資料はその内容レベルに応じて,仕上げを外注に出すという使い分けも考えられる。いずれの場合でも,シミュレーションで作成したデータを継承してプレゼンテーションでも利用できる体制とすることが合理的であり,内容的な誤りも発生しにくい。

 プレゼンテーションの成果品の形式としては在来のパースと同様のプリントとしての提供以外にも,アニメーションとして提供することでより現実感の高い表現効果をえることができる。ビデオなどはあらかじめ作られたシナリオに従って一方的にメッセージを流す形式が一般的であるが,CGの特性を生かしたプレゼンテーションの新しい方向性としては,マルチメディア機能を活用することで,情報の種類や見たい視点を対話形式で自由に選択させる方法がある。つまりプレゼンテーションにもシミュレーション的な要素を取り入れることで,より高い啓蒙効果と内容の客観性を付加することができる。そして,マルチメディアによる対話機能はインターネットなどのネットワークを介して,家庭のパソコンなどの遠隔地で同様の操作をすることが可能なので,一般市民の参加による合意形成を図ることができる。双方向通信機能を生かした,アンケート形式で意見のフィードバックを直接得ることも可能である。

 新しいプレゼンテーション手法としては,ハイビジョンなどの高精度画像による立体視アニメーション機能などもあり,イベント会場でのアトラクション的な利用として考えられるが,一般的なプレゼンテーションとしてはややオーバースペックである。このような高度なプレゼンテーション技術の真価が発揮されるのは,古代都市,歴史的建築物などの復元映像などのニーズであろう。