2.計画支援手法としての利用

 さて,前節では景観シミュレーションの公共的な立場での利用方法として景観行政などの立場で「景観」が主題として扱われるケースを想定してに述べたが 「景観検討」だけを目的として常に大掛かりな景観シミュレーションを実行するのには限界がある。また一方では事業関連で必要な景観検討がされずに,いわばルーティンとして作られてしまうものについての景観的な配慮を求めることが重要課題である。

 設計段階でCADが利用され,プレゼンテーションのためにCGが使われるようなケースも増えつつあるが,事業推進目的のプレゼンテーションは景観検討という意味では必ずしも適切な内容とは限らない。そこで,そのような事業関連でのCG利用,あるいは都市の総合計画支援のためのGISなどのシミュレーションシステムといった別システムと景観検討用のシステムを連携させることで,コスト・運営面での合理化をはかるのみならず,それらのデータと景観誘導を密接に連携させることが今後の望まれる方向性である。

(1)事業計画との連携

 かつて横浜市では自治体内部の縦割り的な垣根を越えた横断的な組織により,高架として建設が予定されていた高速道路の地下化といった偉業を成し遂げたが,この目的は高速道路によって都市中心部の都市構造,景観構造が破壊されることを防止することであった。このように早期に景観に関する基本的な問題提起を事業レベルに反映させるためには,総合的な計画調整機能と景観検討とが連携できるような仕組みをつくることが必要である。

 再開発などの面的な開発計画については,計画の総合調整を行うための道具としてシミュレーションを活用するのに最も適したケースである。この場合,CG(CAD)を共通のプラットフォームとして全ての情報が集まるような仕組みとすることで,計画時期が異なる計画同士のとりあいの検討などについて,有効な計画調整を行なうことができる。特に特定街区,総合設計制度,再開発地区計画制度などを活用した自由度の高い計画に関しては,シミュレーションによって内容を検討する意義が大きい。

 事業計画が一定規模以上のものであれば,民間事業者で景観シミュレーションのシステムを持っているケースが多く,それを有効に活用することで,事業関連で景観シミュレーションを実行できる可能性が大きい。この場合,景観行政側で景観検討として必要な検討項目をあらかじめ定めることで,総合的な計画調整と景観誘導を連携させることができる。環境アセスメントで要求される景観検討についても,完成予想のモンタージュ以上の内容を組み込むことができよう。

 次なる課題は土木関係など,景観形成上重要であっても,これまでに適切な手段がなかったために景観検討がなされなかった分野への適用である。橋梁などの設計で「デザイン」が目的化するとデザイナーが参加するようなケースもあるが,一般的な計画で「景観」が課題となるのは,最終段階で,付加的な装飾のレベルになってしまうケースも多い。そしてCGによる景観シミュレーションが利用されることがあっても,最終のプレゼンテーションが中心であった。例えば造成が終了し,重要な交差点に目ざわりな擁壁とか橋の橋脚ができあがり,「何かデザイン的な解決方法はないでしょうかね」といった話がある。そして下手な化粧で解決しようとするとなおさら目立ったりする。このような場合,早期に的確な景観検討を実行していれば,基本的な形式の選択段階でより適切な回答があったかもしれない。

 宅地造成計画関連では計画の早期段階では図面しか検討手段がないために「標準設計」が主なよりどころとなってしまい,景観形成上の重要な問題が見落とされてしまうケースも多い。計画の初期段階から計画内容の調整手段として,景観シミュレーションを活用することで,将来の街のイメージを含む実体をともなった景観の次元を加えることが可能になり,土地の特性を生かした景観計画を反映させることが可能になる。

 特に丘陵地区などの,地形に起伏があるエリアを開発するような計画造成計画では,3次元的な地形モデルによる設計検討手法を導入することにより,景観検討のみならず,造成計画にかかわる移動土量,集水域の集計,斜面の傾斜度といった各種の計算を連動させて検討することが可能である。移動土量の最小化を図ると同時に,景観形成上有効な保全緑地の設定,アイストップとなる緑地などの主要な景観要素への見え方を配慮した道路線形の選定など 固有の立体的な条件を生かした計画を支援することが可能である。

 そして,調和のとれた都市景観を創造するために,様々な局面で複数の事業者による計画相互の関係性の調整を行なうことが必要である。異なった事業者による事業相互の関係調整の他,計画の時間軸が合わない場合には,異なった熟度の計画相互の内容のすり合わせを行なう必要性も出てくる。民間事業どうしの関係性の調整のほか,公共事業と民間事業との調整,そして公共事業どうしでは,道路と公共施設,広場公園と道路,河川と道路や公園などの要素相互の関係性の検討を景観シミュレーションで行なうことができる。このような調整を可能にするためには,公共側でそれぞれの事業関連のデータをストックすることで,必要に応じて事業者にデータを提供するような体制をつくることが考えられる。

(2)総合計画との連携

 今後,都市の成長管理を行なう上で,都市の総合計画(マスタープラン)による,長期的な展望に基づいて異なる次元の要素の整合性をとることが必要になる。そして都市づくりとしてはインフラ施設整備中心のものづくりの発想から,防災計画,景観形成や都市アメニティ計画といった,人を中心とした座標でものづくりをとらえ直す方向へと向かう傾向が強くなる。計画の基礎となる都市モデルとして,成長率をそのまま延長するといったこれまでの統計的な仮説が意味を成さなくなり,総体として多くのファクターを考慮し,各種パラメーターを変えることによる都市の成長モデルのシミュレーションとして可視化の力を借りる意義は大きい。この方向性については,都市シミュレーションのゲームソフトで模擬的に実現されている。

 昼夜間人口,各種エネルギー消費量,上下水道容量,道路計画のための交通発生量の検討など,都市の成長管理に必要な環境容量に関する様々な要素のリンクはより高度なGIS(地図情報システム)の機能として位置づけられる。GISの3次元表示機能を強化することで,様々な情報が可視化され,その応用として景観シミュレーションにも使えるようなシステムが考えられる。すでに大規模な火災などの被害を想定したシミュレーションには,CGが利用されているが,これは景観シミュレーションで用いられる可視化の技術と同じラインにある。

 一般的な都市計画関連の規定については,用途地域,容積率,最高高さといった設定と将来の街並みの景観検討を連係させることにより,景観を連携させた検討を行なうことができる。実体としては,都市計画容量のみで街並み予測をすることには問題があるが,あくまでマキシマムとして設定数値に連動したおおまかなボリュームモデルによる簡便な景観検討を行なうことができる。設定容積率の違い,高さ制限の数値,セットバックの距離,壁面線指定位置などの変数を数値入力することでバリエーションを作成し,それぞれのケースについて様々な角度から景観評価を行うことができる。

 その結果を都市計画にフィードバックする上で,おそらく「景観」というファクターのみではその説得力に限界があり,緑のマスタープランのほか,防災計画,都市のヒートアイランド化防止を目的としたエアボリュームとしてのオープンスペースの設置といった計画を総合した都市の総合的な基本アメニティ計画と関連づけて位置づけることが考えられる。

 地区計画等などのより詳細な規定における景観の項目については,合意形成を図るための適切な検討手段が無く,あるいは運用基準の具体化が困難であるためにおおまかな一律規定,あるいは前例指向となる傾向があるが,景観シミュレーションの活用により,セットバック規定の数値化など,個々の条件に対応したよりきめ細かな対応についての検討を行なうことが可能になる。

 そして,街づくり協定などでにぎわいの創出といった目標がある場合,小さなスケールで総合的な計画が必要になる。これは米国の都市づくりではダウンタウンの活性化の方策として常に主要なテーマとなっている。良好な街並み形成の誘導のみならず,非商業施設による街並み分断の回避といった,建物の建て方に関する包括的なガイドラインの導入が重要なテーマとなり,その合意形成の手法としてシミュレーションが用いられている。