1.景観まちづくりの動向

1.景観まちづくりの動向


(1)自治体の取り組み

 昭和60年代に先進的な都市を中心にすすめられてきた景観まちづくりは,平成に入ってからは区市町村はもとより,広域自治体である都道府県での取り組みも加わって,今や全国的な展開をみせている。

 平成5年に「日経産業消費研究所」がおこなった,都道府県を含む全国3305自治体を対象とした景観調査によると,景観形成基本計画は206団体が策定済み,景観条例については259団体が都市型・歴史型・環境型等のいずれかの景観条例をもっているとしている。
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 さらに最近の都道府県の状況をみると,景観形成指針・景観基本計画・都市景観マスタープラン・景観形成ガイドプラン等,すでに20都道府県が全域あるいは特定地域を対象とした何らかの景観形成計画を策定ずみである。また制度的な裏づけについても,20県が全域あるいは特定地域を対象として,景観条例・街道景観条例等,景観形成のための条例を策定している。
(表1)都道府県の景観基本計画・景観条例等の策定状況

 東京都においても,区部を中心にすでに25の区市が景観整備指針や景観基本計画を策定ずみであり,また新宿区,豊島区,北区が景観に関する総合的な条例を制定している。
(表2)東京都の区市町村における景観施策の概況

(2)国の動向

 そしてこれらの全国的な動きに呼応するように,国においては,早くは昭和56年に「うるおいのあるまちづくりのための基本的考え方」(建設省)が,また昭和59年には「美しい国土建設のために−景観形成の理念と方向」(美しい国土建設を考える懇談会)が示されている。
参考文献4

 昭和61年5月には,都市局長の私的諮問機関としての都市景観懇談会が「良好な都市景観の形成をめざして」として,都市景観の基本的考え方,都市景観形成の施策(景観ガイドプラン,各種事業の推進,規制・誘導,市民参加)等についての提言をおこなった。
参考文献5

 そして,昭和62年には「都市景観形成モデル都市制度」を創設し,その後平成2年度の「うるおい・緑・景観モデルまちづくり制度」に引き継ぎ,小樽市,盛岡市,金沢市,名古屋市,倉敷市,高知市等合計43の都市で,これらの制度の適用を受けた景観整備がおこなわれている。

 平成2年にはさらに全国的な景観形成をめざして,10月4日を「都市景観の日」と定め,全国各地で都市景観にちなんで行事をおこなうこととなり,平成3年には全国を対象に,良好な都市景観の形成事例を広く表彰する「都市景観大賞」制度を設けた。平成6年7月には,建設大臣の私的懇談会である「美しいまちづくり懇談会」からの提言が出され,“文化や美しさをまちづくりの本質的な要素としてとりあげること,まちづくりの手法は西洋を手本にしたものであっても,日本文化の中でまちづくりを考えることが重要である”等が改めて示された。建設省はこの提言にしたがって,今後積極的な取り組みをすすめていきたいとしている。

 なおこの間,平成元年には,まちづくりのデザインを総合的,専門的に調査研究,企画・立案する機関として,財団法人都市づくりパブリックデザインセンターが設立され,国・地方公共団体や関連企業への情報や技術の提供をおこなっており,平成2年度には,全国の自治体での景観行政の展開を念頭においた,CGによる都市景観シミュレーションに関する研究等も実施している。

(3)景観まちづくりの背景

 このように国あるいは各自治体が景観行政に積極的に取り組むようになったのは,人々の間に,豊かさを実感できる質の高い魅力ある都市への要求が,高まってきたからに他ならない。

 すなわち,従来の都市づくりでは,都市計画法や建築基準法に代表される法制度をもとに,いわば全国一律の基準にしたがった画一的な手法でつくられた結果,全国どこへ行っても同じようなまちが出現して,地域の個性が失われてきた。また,縦割りの事業体系によってそれぞれの事業が個別におこなわれた結果,事業間のアンバランスが目立ち地域全体で見ると必ずしも満足のいく状況ではない。そしてこれらの反省から,市民の側から,地域の視点にたった総合的な環境としてのまちづくりを求めるようになったのである。また行政の側においても,地域からの発想を大切にした住民参加によるまちづくりの重要性が認識されるようになり,その手法が模索され,その一つとして総合的な環境である景観をテーマにしたまちづくりが,注目を浴びるようになったのである。